これまで何とも表紙は目にしていた「戦略プロフェッショナル[増補改訂版]」をやっと読むことができました。表紙の印象もあり、もっと小難しくて読み進めるのに苦労するかと思っていましたが、まったくの思い違い。すぐに引き込まれて、3日くらいで読破してしまいました。ほぼ“実話”の熱いビジネスストーリーは、すべてのビジネスマンに響くはずです。
著者は、三枝匡さん
三枝匡(さえぐさただし)さんのデビュー作です。
私が読んだのは、2013年に出た[増補改訂版]ですが、初版は2002年に出版されている大ベストセラーのビジネス書です。
三枝さんはビジネス界では大変有名な方ですが、ご存じない方のために巻末にあるプロフィールを抜粋します。
筋金入りですね。現在は内閣府の参与も務められていらっしゃるようです。
「あとがき」のさらに後ろに増補されたインタビュー記事の中で、三枝匡さんのビジネスマンとしての半生が詳らかにされています。
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)→スタンフォード大MBA→事業再生コンサルタント→東証1部上場企業社長、という華麗なる経歴ですが、その道のりは苦難の連続だった(あたり前ですが)ことがつづられています。具体的な挫折のエピソードもあり、インタビューだけでも読み応えあります。
現在の事業経営には”戦略”が欠かせないものになっていますが、三枝匡さんは間違いなく日本人のトップランナーの一人ですね。
「戦略プロフェッショナル」のあらすじ
「戦略プロフェッショナル[増補改訂版]」は、大企業から医療系ベンチャーに出稿した広川(30代後半)が、試行錯誤しながら経営を立て直していく姿が物語形式で描かれています。
ここで重要なのは、このストーリーは“ほぼ実話”だということ。
著者の三枝匡さんが体験したことを、時間軸も業界も変更を加えず、さらに会社の課題やその解決策まで、忠実に物語として再現したということです。その事実を知ったうえで読むと、より心に迫ってくるものがあります。
米国でMBAをとった広川は、大企業での自分の境遇に漠然とした悩みをかかえています。そして、かねてから広川を頼りにしてくれていた医療系ベンチャー新日本メディカル社の経営者に請われたことをきっかけに、30代という若さで常務取締役として会社を移り(出向)、様々な壁にぶつかりながら、事業戦略の大改革に取り組むのです。
ラストはハッピーエンド。ジュピターという医療検査機器の大幅売上増を広川はやり遂げ、急成長した部下たちと共に、大きな達成感を味わうことになります。
以降、物語中で登場し、とても印象に残ったキーワードを紹介していきます。
新しいルールを創り出すことが最重要
事業戦略を成功させるには、業界で当たり前になっている競争のルールに穴をあけ、新しいルールを創り出す必要がある。作中には、「強くなりたければ人の真似はするな。競争のルールを変えろ。」というセリフも登場します。
つまり、自社の強みが発揮しやすいルールのゲームを創り出し、顧客や競合他社を巻き込もうということですが、これって本当に難しいことです。
ゲームチェンジはいたるところで起きていますが、後でなるほどと感銘を受けるのが関の山。こうなる未来を、この会社はいつから想像し、準備をしてたのだろうとクラクラします。ビ、ビジョナリー…
プラットフォーム、SNS、サブスクリプション、シェアリング、根っことしては古くからある価値を現代的な解釈と技術で更新し、多くの新しいゲームが生まれています。
実績によるプランニングは勝者の理論
前年ベースの積み上げ式の目標設定では、真の意味で勝者になることはできません。そのようなやり方でよいのは、業界トップの高シェア企業だけ。
ゲームチェンジの野望を持ち、シェアの大逆転を目論む企業は、あるべき姿(目標)をまずバーン!と出してしまうべきということです。
その際には、実現可能か不可能かは問題ではありません。そもそも前年の数値とはかけ離れた目標になるわけなので、現場はまず「不可能だ」と感じるのが普通です。でもやらなくてはならない。
そして経営トップは強いリーダーシップを発揮し、その目標がなぜ達成されなければならないかを部下に説得し、士気を鼓舞し、創意工夫を促し、「共に考え、共に戦う気概」を見せることが必要であり、それこそが目標先行のプランニングを成功させるための要件だと断言しています。
戦略とは現実と理想とのギャップ埋めるための手段ですが、そのギャップの設定が重要だということですよね。
これまで同様のやり方でも、“がんばれば”達成できるかもしれないようなギャップでしかなければ、画期的な戦略なんて誰も考えようと思わないですから。
とは言え画期的な戦略という果実は、条件が整えば自動的に生まれるものではないわけです。それゆえ、経営トップの不退転の決意とリーダーシップがとても重要であるということかと思います。
買い手のロジックを知ることが戦略立案の第一歩
新日本メディカル社の販売方(価格設定、チャネル設定)は、ジュピターという付加価値の高い商品を売るのにふさわしくありませんでした。
もともとの仕入れ値(マージン設定)や、競合との比較、古くからの取引先との関係性を重視し、本質的な意味での買い手(病院)のニーズをとらえてはいなかったのです。
このように書いてしまうと、新日本メディカル社がアホだっただけじゃないかと思うかもしれません。
ですが、実際にはどれほどの企業が真の顧客ニーズ、そして購買にいたるロジックを深く理解した上で、マーケティングを組み立てられているでしょうか。自らや自社のことを思い返してみても、恥じ入るばかりです。
マーケティング戦略開発はトップの役目
「画期的な成果を収めるマーケティング戦略開発はトップの役目」ガーンとやられました。
逆に言えば、画期的な成果を収めるマーケティング戦略を“発明できる”人、もしくは主体的に動いて“発明に導ける”人でないと、トップになる資格がないということですよね。
これはあきらかにマネジメントの先にある能力・スキルではありません。
経営トップは、前年ベースの改善マーケティングに没頭しがちな現場とは異なるビジョンを持ち、高い目線で、シンプルで効果的で、誰もやったことのない戦略を考え、皆を鼓舞しつつ実行に移していくことが求められるんですね。こりゃ大変だ。
セグメンテーションに宿る強力なミュニケーション効果
企業が事業戦略を組み立てる際には、必ず外部分析の中でセグメンテーションという作業を行う。ここまでは手順の話しです。
セグメンテーションによる効果は多々あります。
勝てる局地戦に赴くための重要な意思決定。よいセグメンテーションは有望顧客の把握だけでなく、非有望顧客の見える化に役立つ。等々。
本書ではそのような内容にも触れながら、より成功のために重要だったのはそのコミュニケーション効果だと言っています。
その意味は、新しく効果的なセグメントを見つけ出す作業を通じて、新しい目標や戦略の重要性に関する社員の理解が深まったということです。有効なセグメントを切るには、顧客に対する正確な理解が必要です。もし既に知りえていない内容でも、現場の営業マンの力を使えば、最新の、そして肌感覚として正しい情報を集めることも可能となります。そうした生の情報こそが画期的なマーケティングに重要であり、トップがどのような情報が重要であると考えているかをセグメンテーションの過程を通じて多くの人が知ることになります。
繰り返しですが、「絶対に必要な社員への戦略の浸透がセグメンテーションを通じて大幅に進んだ」という内容がは、とても心に残りました。
戦略のセオリーを知っていることは大きな武器となる
経営トップは、新しい戦略を考え出す作業手順をマスターしていることが大事。そして、作業のステップごとにどんな選択肢があるのかきちんとチェックし、責任者として自分を詰めていく”緻密さ”が大事。
この内容は、具体的なエピソードとしても物語の全編にわたって貫かれているトップの基礎的な資質です。
物語という形式でドラマを描くことで生々しく泥臭いリーダシップ、そしてあきらめない心が経営トップには大事だということを伝える一方で、トップたるもの当然の様に一般的な戦略立案のセオリー(知識&スキル)を身に着けていなければならないと釘を刺されます。
それも、ただ物の本で読んだことがあるだけでなく、その実行が自らの血肉になっていなければいけないと。これにも参りました。
普通の若いサラリーマンに、ここで求められるような実践の場がどれほど体験できるでしょうか。だからこそ著者は“背伸び”の重要性をとき、自らの能力を常にストレッチしなければ役割が果たせないような場所に身を置くべきだと迫るのです。
守・破・離、とはよく言ったもの。
セオリーとは守り。そのセオリーを意図をもって破るところに勝機が生まれ、過去の常識と離れ新しいルールを創り出すことが持続的な利益につながるというわけです。
そして、心・技・体。
リーダシップが心、戦略立案のセオリーが技、多少のリスクは気にせず「夜はグーグーとよく眠れる」ことが体です。いや、最後のやつは心かな?いずれにしても健康は絶対に絶対に絶対に大事。
おしまい
どういう人のことを「戦略プロフェッショナル」と著者が考えているのか、とてもよく伝わるよい本でした。そして、物語と著者のメタ的解説が交互に繰り返されることでメッセージが頭に定着します。あとがきにある後日談や、あけっぴろげなインタビューも読みごたえ満点です。中小企業診断士を目指す人だけでなく、すべてのビジネスマンが読むべき良書だと感じました。1~2日くらいで読めちゃいますしね。
一緒にがんばりましょう。
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