サブタイトルまで含めた書名は、「ファンベース -支持され、愛され、長く売れ続けるために」です。2年ほど前に「北欧暮らしの雑貨店」主催のイベントで、クラシコムの青木耕平さんがゲストとして佐藤尚之さんを呼んで対談されていたのを永田町のGRIDで拝見しました。
その時のテーマがまさに”ファンベース”だったのですが、対談自体はとても興味深かったにも関わらず、結局本までは読まず。きっと他に読みたい本や、関心ごとがあったのでしょう。笑
この本は、こんな人にオススメです。
著者は、佐藤尚之さん
さおなおさんというペンネームでも知られている、佐藤尚之さんです。
佐藤尚之さんのことは、なんとなく知っていました。
「明日の広告」はベストセラーになりましたよね(読んでない…)。電通出身で、ハットかぶってて、赤いメガネをかけている人。なんだかちょっと苦手だな… そんな先入観がおそらく邪魔になったと思われます。笑
今回「ファンベース」を読もうという気になったのは、やはり青木耕平さんとの対談が頭のどこかにずっと残っていたからです。
私が今置かれている環境や、やるべきミッションに向かい合ったときに、あの時2人が話していたことがヒントになるかもと、ふと思い出したわけです。
結果、読んで正解でした。
「ファンベース」の目次を紹介
“ネタバレ”というのもおかしいですが、新書という性格上、目次に本のエッセンスがかなり詰まっています。
すべて買いてしまうのももったいない(ぜひ自分で読んで欲しい)ので、章立てのみ紹介します。
- 第一章 キャンペーンや単発施策を、一過性で終わらせないために
- 第二章 ファンベースが必然な3つの理由
- 第三章 ファンの支持を強くする3つのアプローチ
- 第四章 ファンの支持をより強くする3つのアップグレード
- 第五章 ファンベースを中心とした「全体構築」の3つのパターン
- 第六章 ファンベースを楽しむ(もしくは実行の際のポイントの整理)
“ファンベース”という新しい言葉を書名にもってきている本書。
新しい言葉というのはともすると「うさん臭い」ものですが、第一章のタイトルにはしっかり「キャンペーン」「単発施策」「一過性」というパワーワードを持ってきています。笑
この章でマーケティングに携わる悩める担当者の心をガッチリつかみ、その解決策こそが”ファンベース”であるというわけです。
パワーをまとったキレイごと「ファンを大切にしよう」
まずは、”ファンベース”の意味の確認です。
この「ファンを大切にしよう」という主張自体はまったく新しいものではなく、むしろ大昔から言われ続けていることです。
ですが、その「ファンを大切にしよう」という美辞麗句は、キレイごととして軽んじられてきたのではないか。でもそのキレイごとは、今、そしてこれからの時代には必然であり、”ファンベース”抜きにマーケティングは考えられないのではないか、というのが本書の主張です。
“キレイごと”というのは、その逆側にある“ドロくささ”の存在を感じさせます。
「キレイごとばっかり言ってねぇで、ドロくさくてもいいから結果だせよ!」みたいなセリフが浮かびます。
今の時代、そんな根性論ではなく、”キレイごと”こそが結果を生む、”キレイごと”を徹底しなければ結果は出ないというわけです。
本書の中に、こんな一節がありました。
ずっと広告や宣伝は「妨害型」だった。
”ファンベース”がやるのは提案です。自らのファンを幸せにして、さらに結果がついてくる。それって素晴らしいことじゃないですか! と本書は謳いあげます。
“ファンベース”が必然な3つの理由
この部分が本書の白眉。
今の時代に”ファンベース”が必然である理由は、以下3つ。
- 売上の大半はファンによるもの
- 時代的・社会的な要請
- 新たなファンはファンが作る
それぞれ詳細な説明は省きますが、どの観点もとても腹落ちできることばかり。
特に私が携わってるWEBのメディア運営にとって、ファン(ハードリピーター)の存在はとてもありがたいものですし、1つ目の観点はデータ的にもほぼ当てはまります。
選択肢が多ければ多いほど人は選ぶのに悩み、選んだ結果が本当にいいのか気にもなり、自信をなくし、結局選ぶのをやめてしまう
アメリカ・コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授が実験によって導きだした教訓として、本書の中で紹介されいたものです。
胸にグサッと刺さりました。
さらに、「USPはすぐに追随され、陳腐化する」という内容も胸に響きました。
もちろんUSP(ユニークセリングプロポジション)こと「商品固有の売り込み提案」は必要です。要は差別化ですが、これをせずに競争が激しい市場で戦うことなど怖くてできません。
帆をつけていない帆船で、太平洋を横断しようとするようなものです。
ですが、当初は立派なUSPであったものが、それが立派であればあるほど、一瞬でまねされ陳腐化されてしまいます。
コアなファンは、自社のUSPが陳腐化して以降の頼みの綱です。
逆に言えば、USPがしっかり効いているうちにコアなファンを作ることができなければ、この流れの早い時代においては安定的な事業運営などできないというわけです。
コアなファンを増やす3つのアプローチ
本書の中では、ファンを増やす、そしてつながりを強くする具体的なアプローチが上げられていま。
基本的な枠組みはわかりやすく3つ。
共感・愛着・信頼です。
そして、その上位互換としての、熱狂・無二・応援です。
まずファンの共感・愛着・信頼を醸成する施策に継続的に取り組んでいき、土台ができたらさらにその進化系である熱狂・無二・応援にアップデートしていく。
この本で言っていることはそれが全てです。
この部分には、そこまで目新しい内容はありません。
これまでも”キレイごと”して様々な企業がやってきたことだらけです。
このような3つの言葉×2セットに落としこんだのは、元電通マンたる著者の面目躍如というところでしょう。
そして私がこの本を読んでよかったと思ったのは、この具体的な打ち手の部分ではありません。
なぜ今の時代にファンベースが必然なのか?
先ほど書いたように、この部分の根拠をシンプルにわかりやすく示してくれたこと。
それが本書の素晴らしいところではないでしょうか。
おしまい
1冊読み通すのに2時間もかからない、よいボリュームの新書です。あとがきで著者も書いているように、新書であるということを多分に意識した構成ですが、佐藤尚之さんというパーソナリティ-とキャリアを考えると、それがとても良いほうに出ていると感じました。
人間というのはとても理不尽なもの。ツンデレなんて言葉もあります。誰かに自分のファンになってもらう公式。そんなものがあれば最高ですが、なかなかうまくいかないものです。時間もかかります。
本書は、帰納的にそのファン化の公式を導き出そうと試みたもの。ですが、円駅逓にはどうなのでしょうか。
その先は、自らの取り組む仕事の中で、トライアルしていければよいなと思います。
少なくともその助けに本書がなり得ることは間違いなさそうです。
一緒にがんばりましょう。
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